あなたはアルツハイマー病を理解していますか?

アルツハイマー病と関連疾患(パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症:amyotrophic lateral sclerosis)など他の神経変性疾患を理解することはとても大切です)に関する論文が毎年何報ぐらい発表されると思いますか?ある素人に質問したら、「100報ぐらい。」という返事が返ってきました。

実は、年6,000報以上です。基本的に全て英文です。アルツハイマー病研究の現状を把握し、将来展望を描くためには、これらの論文を咀嚼する必要があります。日本中の職業科学者の中でこれが確実にできる人は何人いるでしょうか。と言うのも、公的助成金(税金)を使って行われている研究に的外れなものが多々見られるからです。後から書きますが、多くの企業も何らかの誤解や事実誤認に基づいた研究開発を行っています。

以前、ある一流大学で学部4年生と大学院生に対して集中講義を行いました。その際に英文論文1報を教材に使ったのですが、読み通すのに15時間もかかってしまいました。それでも、正しく理解できていたのは一部の学生だけでした。どう頑張っても年間6,000報は読めませんね。現役の学生がこのような状況ですから、政治家や官僚や開業医や勤務医の方々がアルツハイマー病研究の現状を把握するのは、事実上不可能です。情報量が多すぎるのですから、仕方がありません。

私自身も全ての論文を読み通すわけではありません。基本的にタイトルや要旨で価値を判断し、重要なものには目を通します。それでも、一つの原著論文の論旨と問題点を把握するのに10分以上使うことはほとんどありません。大事な論文のPDFファイルはテーマごとに分類して、データベース化しています。そうすることによって、研究の世界的状況を頭の中で再構成するわけです。気をつけなければいけないことが一つあります。全ての論文が正しいとは限らないことです。本当に肝心なデータは自分か信頼できる仲間が確かめるまでは信じないことにしています。間違っているのはSTAP論文だけではありません。トップジャーナルに発表された論文を鵜呑みにして何年も無駄にした研究者が沢山います。

あとは、一流の科学者同士の間でだけ得られる情報です。これはかなり新しく確実です。このような情報はこちらが二流では無理ですから、一流と目されるように頑張るしかありません。一流か二流かは基本的に論文リストで判断されます。(ここで無茶をすると小保方晴子になってしまいますから、注意が必要です。)この意味で、基本的に論文発表を行わない企業研究者は不利かもしれません。

私はこれまでに、1ヶ月をかけた世界一周講演旅行を2度行いました。2001年と2012年の春でした。欧州と米国で当時一流と目されていた研究者を訪ねながら、それぞれ約10回講演をしました。2001年は因縁のライバルDenis J. Selkoeとハーバード大学で対決しました。彼はアルツハイマー病研究における第一の権威でしたが、「アミロイド(Aβ)を分解する酵素は何か?」という問題で対立しました。結果は、私の業績リストを見ると分かります。1ヶ月の講演旅行は、今から思うと、命がけで、大変消耗しましたが、得られた情報は素晴らしかったですね。

それから、これこそが科学の醍醐味なのですが、このような活動を通じて国境を越えた友情が芽生え、育ちます。多くの研究者が応援してくれました。ライバルを作ることも悪いことではありません。ライバルのライバルは味方になってくれます。家族ぐるみの付き合いもあります。よく何でも「国際化が大事だ」と言われますが、本当の国際化とはこのようなことなのではないでしょうか。

ドイツの精神科医Alois Alzheimerが初めてアルツハイマー病について学会発表したのは1906年11月6日でした。そのちょうど百年後(2006年11月)に同じ場所(ドイツ・チュービンゲン・チュービンゲン大学講堂)で、世界の代表的研究者が招待され記念講演会が催されました集合写真。アジアからは、井原康夫教授と岩坪威教授と私の3名が呼ばれました。日本以外のアジアの国から招待された研究者は一人もいませんでした。日本がアジアのリーダーであることが分かります。顔ぶれから分かるように、特別に濃密な集会でした。岩坪教授と私は写真に写っていますので、探してみてください。残念なことに、井原教授はたまたま奥様と観光に行かれて(笑)、写っておられません。

2012年の旅行では「次世代型アルツハイマー病モデル」(後述)についても講演しました。論文発表する2年も前でしたから異例のことなのですが、アルツハイマー病研究の進歩に貢献すると信じて敢行しました。勝負に出たわけです。もちろん、特許(日本・米国・欧州)は押さえてありましたし、誰にも負けない自信がありました。そうすると、予想通り、先見の明のある科学者たちからは共同研究の申し入れがありました。STAP細胞とは異なり、今や世界中で再現性が確認されています。また、多くの研究者から科学者として、そして、人間として信頼を獲得しました。

国際学会も情報を得る場ではあります。しかし、昔と違って、論文が受理される前のデータを発表する人は少なくなりました。さらに、出版のIT化に伴って、論文の受理から公表までの時間が短縮されました。学会で聞いた話が次の週には論文になっていたというのはよくある話です。国際学会に参加する価値は以前より少なくなりました。意外に、廊下での立ち話で面白い情報が入ったりします。研究者にとって、最も鮮度が高く詳細な情報が入るのは、トップジャーナルに投稿された論文原稿を査読する時です。新作の料理を初めて食べるようなものです。そのためには、トップジャーナルの編集者に一流の科学者として認知されなければなりません。もちろん、査読者には守秘義務がありますから情報を流用することはありませんが、最先端を知り、将来展望を築く礎となります。

上記のように、アルツハイマー病研究を理解することは容易ではありません。時に海外からコンサルティングや総説執筆の依頼が来ますが、ほとんど断っています。私の知識を安売りする気はありません。以下、アルツハイマー病研究に関して確実に分かっていることを解説します。

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Gregory Cole, UCLA.