日本の認知症研究政策について

認知症を克服するためには、診断・予防・治療の研究に総合的に取り組む必要があります。ところが、今の日本には組織的に取り組む仕組みがありません。私は政治のことはよく分かりませんが、不思議なことです。文部科学省は、基礎研究に対する志向が強く、臨床応用へ向けたいわゆる「出口研究」はとても近視眼的です。(たとえば、マーモセットモデル作製が推進されていますが、作った後にどうするのでしょうか?仮にアミロイド(Aβ)が蓄積したとして、発症するまで20年間待つのでしょうか?私たちにはそれなりの戦略があります。)一方、厚生労働省は臨床に近いのですが、診断・予防・治療よりも介護に力を入れています。介護はもちろん大事です。しかし、それだけでは今後ますます少子高齢化する社会に対応することができません。以前、文部科学省のために認知症研究に関する資料を作成したことがありました。その時に、文部科学省と厚生労働省が情報を全く共有していないことに大変驚きました。

上記の縦割り行政問題を解決するために提案された日本版NIH(AMED)もあまり機動的に機能してはいないようです。日本版NIH(AMED)の運営には視野の広いマネジメント能力と高度な専門知識の両輪が不可欠ですが、実態が見えません。実は、世界の主要製薬企業が大変な泥沼にはまっており、このままでは倒産する会社が少なくないでしょう。今、日本がナンバーワンになるチャンスです。

一刻も早く始めなければいけないことは、一流の基礎と臨床の研究者が一丸となって診断・予防・治療の研究に全力で取り組むことです。すでに述べたとおり、このままでは医療費と介護費が日本政府の税収を上回ってしまいます。そうなると、社会保障制度だけでなく、年金制度も崩壊しています。病院に行っても医療費は補助されなくなるでしょう。まず、第一の大きな危機は、団塊の世代が80歳を超える頃にやってくるでしょう。もう15年ありません。財務省と厚生労働省には危機感を持っていただきたいと思います。

日本はとても不思議な国で、認知症研究に使われる研究費は再生医療に比べて非常に少ないのが現状です。あくまで私の推測ですが、再生医療の市場規模は成長したとしても1,000億円程度だと思います。(現時点では実質的にゼロに近いと言ってよいでしょう。)この市場に政府は約1,000億円を投資しつつあります。一方、認知症医療の市場規模は数兆円を超えると予測されるのに対して、年間の研究費は数十億円程度です。ちなみに、再生医療を認知症医療に応用できると思っている人がいるようですが、不可能です。是非、認知症に関して勉強し直して欲しいと思います。

私と岩坪威教授(東京大学医学系研究科)はこのような状況に危機感を覚え、各界に向けて総合的認知症研究推進の提言を行ってきました(提言)。徐々に浸透しつつあると信じていますが、まだあまり反応がありません。日本には40以上の優れた研究グループがあるから是非とも実行するべきです(研究者リスト)。

具体的には、基礎研究者と臨床研究者からなる研究班の設立を提案しました。「研究班」というと厚生労働省のイメージがありますが、上記の理由から、厚生労働省主導では、基礎と臨床のバランスをとるのが難しいように思います。多くの臨床系研究者が平日の午前中は外来に、そして、午後は病棟に対応しなければならないため、平日の夜と土日に研究を行っています。彼らが、研究員や技術員を雇用することができれば、必ず研究が進みます。また、単なる学会ではなく、研究班でなければだめなのです。学会と違って、研究班会議は真剣勝負です。研究の進捗状況が芳しくなければ班員から除外されるという競争原理が働くからです。また、有機的共同研究も機動的に行われます。今の日本なら、世界に勝てると思います。今こそ、日本版NIH(AMED)の出番なのではないでしょうか?

日本学術振興会にいる知人によると、日本の科学技術政策に関する最終的決定権を有するのは財務省だそうです。「財務省=納税者」という図式があるからです。財務官僚の方々には、是非このHPを見ていただきたいと思います。

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