アルツハイマー病研究を変える「次世代型アルツハイマー病モデル動物」

2015年12月、私たちが開発した「次世代型アルツハイマー病モデルマウス」(下記)を用いた共同研究が130件を超えました。論文発表したのが同年4月でしたから、驚異的なスピードだと言えます。2015年以降、これらのマウスを用いた成果が世界中から報告されることになります。是非、期待してください。

第一世代(旧式)のアルツハイマー病マウスモデルは、約20年前の1995年に発表されました。その後も同様のマウスが作製されましたが、APPを超過剰発現するトランスジェニック(Tg)マウスであったため、多くの欠陥があり、アルツハイマー病研究の障害になっていました。大変よく使われてきているTg2576のウェスタンブロットのデータをご覧ください。さらに、PD-APP(Games et al., Nature, 1995)の状況はより厳しいと思われます。PD-APPのウェスタンブロットデータです。これまでに論文発表された結果の約6割がアーティファクトであると推測されます。以下、問題点を列挙します。専門的すぎて分かりにくいところは、ご容赦ください。

  1. APPやプレセニリンなどの膜タンパク質を過剰発現すると、ERストレスが惹起される。ERストレスは、UPRやIP3受容体活性化などを引き起こす。IP3受容体活性化はカルシウム濃度を上昇させるので、てんかん等の原因となる可能性がある。
  2. APPはキネシンと相互作用するため、APP過剰発現は軸索輸送を攪乱する。
  3. アミロイドβペプチド(Aβ)以外に、可溶性APP断片(APPs)・APP intracellular domain(AICD)・C-terminal fragment β(CTF-β)などが過剰産生される。これらの非Aβ断片が人工的な表現型を生み出す可能性がある。特にCTF-βは神経毒性が強い。
  4. 多くのAPP-Tgマウスはアミロイド(Aβ)蓄積の前から行動異常を示す。これは、アルツハイマー病の病理像および臨床像と逆である。さらに、多くのAPP-Tgマウスは、原因不明の突然死を示す。
  5. APP-Tgマウスを他のTgマウスと交配すると、さらに複雑な人工的表現型が生じる危険性がある。
  6. mRNAの細胞特異的スプライシングが失われる。
  7. APPトランスジーンの発現が内在性APPの分布と完全に同一ではない。
  8. トランスジーンを発現するためのプロモーターが内在性プロモーターと転写因子に関して競合する。(内在性プロモーターによる内在性遺伝子の発現を抑制する可能性がある。)
  9. APPトランスジーンがホストの染色体に挿入され、内在性遺伝子を破壊する。人工的表現型の一部は、この結果かも知れない。多くの場合、挿入部位は同定されていない。
  10. トランスジーンの発現はラインごとに、また、時間とともに変化する。
  11. 使用するマウスラインは表現型の強いものが恣意的に選ばれる傾向がある。

第一世代モデルマウスにはこのような問題があるため、遺伝子改変動物との交配実験や治療薬候補に対する薬理行動試験の結果はあまり信頼できません。したがって、アルツハイマー病の診断・予防・治療に応用するのは、かなり難しいと思います。実際ほとんどが失敗しています。唯一創薬につながる可能性があるのは免疫療法ですが、後述するような問題点(「日本そして世界の製薬企業の実態について」参照)をはらんでいます。今後、これらのマウスをモデルとして使うことは、基礎研究でも臨床研究でも激減するでしょう。言い換えれば、次世代型アルツハイマー病モデルが唯一の妥当なAβアミロイドーシスモデルマウスとして生き残ることを意味します。

私たちは12年の年月をかけて、これら全ての問題を克服した次世代型モデルの作製に成功しました。過剰発現ではなく、「ノックイン」という戦略を使いました。専門的なことは省略しますが、マウスのゲノムを傷つけないで済みます。2014年4月14日、日本が世界の最先端の前に立った瞬間です。NatureやScienceではなく、神経科学のトップジャーナルNature Neuroscienceに発表しました。第一世代モデルを作った研究者は今や世界的権威になっており、新しいモデルを快く思っていなかった人もいましたから、逆風の中、快挙だったと思います。今後、第二世代モデルは第一世代を駆逐し、世界標準となるでしょう。プレスリリースをご覧ください。)また、第一世代モデル(APP-Tgマウス)全ゲノム配列決定を求められつつあり、これらを使った研究がトップジャーナルに掲載されることはかなり難しくなるだろうと思います。私たちの研究は、世界最大のアルツハイマー病研究に関する情報交換サイトAlzForumでも公開Web討論会として取り上げられ、今もアクセスすることが出来ます(AlzForum Webinar)。

このマウスモデルを使った共同研究は既に100を超え、150に達しようとしています。米・欧・アジアの主要基礎研究拠点はほぼ全て押さえました。これらの共同研究先から、研究成果情報が論文投稿の前に排他的に私たちに入ります。そのような契約MTA (Material Transfer Agreement) を交わしているからです。この情報は、もちろん他者には漏らしませんし、流用もしません。我々が、いち早く世界の現状を把握し、将来展望を描く上で、大いに役に立つでしょう。

このモデルマウスが作製されたことによって、診断・予防・治療のための研究が大きく前進しつつあります。こちらをご覧ください。今後、次々と関連する成果が学会や論文で発表されることになります。2014年7月9日~11日にバルセロナで開かれたBarcelona BioMed Conferenceで私は招待講演を行いました。次に、2014年7月12日~17日にコペンハーゲンで開催された国際アルツハイマー病学会で成果を発表しました。また、2014年11月29日~12月1日に横浜で開催される日本認知症学会(http://jsdr33.umin.jp/)で報告する予定です。私たちは、基本的に未発表データを学会で発表することを方針にしています。もちろん、知財的価値は守ります。

なお、論文の報道解禁日(論文公開日)が日本では新聞休刊日だった上に小保方問題の煽りを受けて、国内の報道は比較的静かでしたが、海外では大きな反響がありました。「takaomi saido alzheimer」で検索してみてください。(国内報道については「西道 アルツハイマー」で検索してください。)このモデルは(株)理研バイオの基幹技術の一つでもあります。企業名は出せませんが、ライセンス契約も進んでいます。理研ニュースをご覧ください。

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第二世代炎症

モデルマウスの神経炎症